012 北島縦断記 2006年6月
法政大学経営学部 教授 今橋隆

 NZは南と北の2つの島から構成されています。5年前、北島北部の主要都市であるハミルトンから、南端の首都ウエリントンまで走りました。用件はクルマの受け取りです。つまり日本で購入し、1年間の在外研究中使用するつもりのクルマを、ウエリントンから乗って帰るのです。

 登録や支払などの諸手続きは1時間ほどで終わり、街中のセドン・モータースというところを出発したのは朝の10時過ぎでした。曇りで風が強く、「風のウエリントン」という異名そのままです。出発して20分くらいは、湾に沿って伸びる高速道路を走り、美しい海岸線を眺めながらの快適なドライヴです。やがて対面通行になり、まわりは一面の緑と山野におおわれます。もちろん、白い毛玉を置いたように羊が散在しています。 

 ウエリントンとオークランドの間を走るのは国道1号線ですが、面白いことに主要都市の一つであるパーマストン・ノースを通っていません。そちらに行く57号線とLevinという町で分かれ、Foxton、Bullsといった小さな町を通過して、クルマは快調に走ります。だいたいNZの道路は都市間で100キロ、都市内で50キロから70キロという速度に規制されています。超過しても10キロ以内でみんなわりと規則どおりに走ります。笑ってしまうのは対向車のパッシングで、その10秒後には取締りの警官が登場し、たまにいる爆走車が油を絞られている、という光景に出会います。ドライヴァー心理は万国共通なんだ、と納得します。

 さて、Taihepeという集落を過ぎると道は登りにさしかかり、剥き出しの地形が残されているような手つかずの光景が広がります。1時を回ったのでWaiukuという町で昼食にしました。小さな食堂でチキンパイと紅茶、ヨーグルトを摂り、しめて5ドル(400円)です。マオリかアジア系か、ちょっと判然としない家族がやっている店でしたが、どうみても小学校高学年か中学生、という子どもたちがしっかりと働いているのにはちょっと感動しました。
ここには陸軍博物館があり、観覧したかったのですが天候が思わしくなく、見合わせました。実はサイクロンが来襲中で、どこで出会うかとひやひやしていたのです。南島のときはクライストチャーチ近郊で雪になり、難渋してアカロア行きを諦めた記憶があります。
これは野宿かと覚悟しかけたときに「B&B」の看板が見え、泊めてもらって何とか助かりましたが。

 ここで1号線を離れ、トンガリロ国立公園の麓を国道4号線で通って行くうち、とうとう雨になりました。そう激しくはないのですがみんなけっこう飛ばしていて、視界が悪くなると何だか不安です。おまけに走行する車ががくんと減り、道を間違えたり、立ち往生したりすると嫌だな、と不安になってきました。そこで停車して地図を広げます。

 NZの地名はマオリ起源のものが多く、日本人には読みやすいのですが記憶しやすいとはいえません。そこで途中の経由地をこじつけで覚えやすくしました。Ohakune、Taumarunuiと通るつもりなので、「叔母かね」「つまらない」と勝手に命名、さあ出発です。ナヴィゲーター兼務の運転も、らくではありません。

 決めたときには気づかなかったのですが、京都大阪間と同様、鉄道の幹線は1号線と離れており、このルート沿いになるのですね。そういえば京阪間でも、東海道本線に沿って走る171号線は「西国街道」と呼ばれています。

赤茶けて荒涼とした土と、そこに生える緑の鬱蒼とした大木に囲まれて、煙るように雨が降っています。突然汽笛が響き、本数の少ないNZの旅客列車でも看板列車である「オ―ヴァ―ランダ―号」に出会います。いまや日本では希少価値の「電気機関車が牽引する客車列車」です。黄色で薄汚れた大型の電気機関車が、薄いブルーのそれでも窓ガラスの大きい、ちょっとしゃれた客車を4両引いて、さして急ぐでもなく走ってきます。オハクネとトンガリロ国立公園の間で上り下りが離合する(単線だから交換待ちがあります)ため、両者を見ることができました。並走してもたいていはクルマの方が速い、というのも可愛いところです。

 雨の不安も乗り物見たさで吹き飛ばし、あとはTe Kuitiという町で出た「ハミルトン」の表示を手がかりに残りを軽快に乗り切り、4時半に市街へ到着できました。オドメーターの読みで524キロ、実走行時間6時間の旅でした。よく走ってくれた1998年式日産パルサー1.5リッターに感謝しつつ、長途の無事をモーテルのオーナー夫婦と喜び合いました。

   著者プロフィール
 今橋 隆
 (いまはし りゅう)
 今橋隆


経歴

1981年3月 一橋大学商学部卒業
1989年3月 一橋大学大学院商学研究科商学専攻博士後期課程修了(単位取得退学)
1989年4月 名古屋商科大学商学部商学科専任講師
1999年4月 法政大学経営学部教授、現在に至る(交通経済学担当)

受賞歴

ポーランド政府インフラストラクチャー省 交通功労者表彰受賞(国際協力機構プロジェクト「ポーランドの鉄道民営化計画調査」支援委員として)(2004年3月)

主な著書

『日本版Private Finance Intiative〜行政改革時代の地域開発・整備・振興政策』、地域科学研究会、1999年(共著)
『自由化時代の交通政策』、東京大学出版会、2001年(共著)
「規制改革と交通への公的関与ニュージーランドのケース」、『運輸と経済』、第62巻第5号、2002年
「交通におけるバリアフリーと政策の展開」、『フィナンシュアランス』、第11巻第4号、2003年
 その他論文等多数


道経研ウェブサイトに戻る

©Institute of Highway Economics. All rights reserved. <webmaster@ins-hwy-eco.or.jp>