034 情けは人の為ならず
2015年 1月
長岡技術科学大学 教授
佐野 可寸志

 道路交通事故の死者数は、平成4年の11,451人をピークに、各方面の関係者の努力により年々減少し、平成26年には4,113人となっていが、高齢者と歩行者の事故は他の事故に比べると、減少のペースが低い。歩行者を検知してドライバーへ警告や減速を促すシステムの市販車への導入も始まり、歩行者の事故が減少することが期待されますが、交通規則の順守やマナーの向上が、交通事故の減少には大きな影響を与えると考えられます。
 先日ある大規模小売店舗立地審議会で、隣接する敷地を移動する際に、街路を横断する歩行者が多数発生することが予想されるため、委員の方から横断歩道を設置してはという意見が出されました。しかし、信号のない横断歩道の設置は、安全性の観点から望ましくないということを事務局の方がおっしゃり、横断歩道設置は審議会の意見として盛り込まれませんでした(その場に警察の方はいらっしゃらなかったので、その担当の方の思い込みかもしれません)。「横断歩道等を通過する際には、横断歩行者がいないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止可能な速度で進行しなければならない」と、道路交通法には規定されていますが、このルールを守って運転している日本のドライバーは、自分も含めてですが、あまりいらっしゃらないと思われます
 一方、ヨーロッパ諸国においては、横断歩道上での歩行者優先は徹底されています。先日ストックホルムに出張した際に気が付いたのですが、歩行者は、自動車は必ず停まるものと信じて、自動車の停止をほとんど確認せずに横断しています。歩行者のマナーも良く、自動車が来てなくても赤信号で横断する人はほとんどいませんし、横断歩道の途中から車道を横切って歩道に歩く人もほとんどいません。遠回りでも律儀に横断歩道を渡って行きます。また、マナーが良いからと言って、それだけに頼るのではなく、横断歩道の直前にハンプを設置したり、学校の近くでは、横断が絶対できないようにフェンスを設置したりして、施設面からも安全性を担保しています。
 日本において、ドライバーと歩行者の交通ルールの順守やマナーの向上を目指すのにはどうすれば良いのでしょうか?交通違反に対しては歩行者も含め、規則を厳密に適用すれば、その場では交通ルール守ってもらえますが、継続性や社会的な受容性の観点から、必罰化は難しいと思います。やはり、交通ルールを順守することは、自分の交通安全にとっても、有益だと理解してもらい、自発的にやってもらうしかないと思います。この文章の執筆を機会に、信号機のない横断歩道の手前では必ず停まるように心がけました。横断歩道の手前で停まると、最初は少し戸惑いの表情を浮かべられますが、笑顔を浮かべ、ほぼすべての人が、お礼のしぐさをして横断されます。道路交通法に従っているだけの行為ですが、何か好いことをしたような錯覚に陥り、一日気分良く過ごせます。「情けは人の為ならず」を経験させてもらえました。日本人は周りの目を気にするので、マナーを守る人がある閾値を超えて増えれば、何もしなくても、順守率が増加することが期待できます。その閾値に到達すると信じて微力ですが、地道な交通マナー向上の取組を実施していきたいと思います。
 



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