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008 アメリカ合衆国とメキシコの国境地域を走る | 2005年9月 | |
大阪市立大学大学院経済学研究科 助教授 長尾謙吉 | ||
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南と北が出会う場所 ボーダーレス時代といわれる今日、北アメリカにおいても、北米自由貿易協定(NAFTA)が発効となり、アメリカ合衆国を核としてカナダとメキシコを含めた経済統合がさらに進展しつつあります。この経済統合は、先進国と発展途上国との経済統合が試みられるという点では、壮大なる実験です。8月中旬に、アメリカ合衆国・カリフォルニア州のサンディエゴとメキシコ・バハカリフォルニア州のティファナの国境地域を訪ねてきました。 サンディエゴとティファナという国境をまたぐ「双子都市」は、ボーダーレス化の代表例として取り上げられます。しかし、現実には国境というボーダーが強固に存在することによって成立している地域経済圏です。 実際、サンディエゴからティファナへと足を踏み入れると、経済格差を肌で感じることができます。頻繁に声をかけてくる職業化した物売りと物乞いの人々もその一断面です。この場所こそ、南と北が出会う場所なのです。 双子工場と双子都市 メキシコ北部の国境地帯は、合衆国市場向けに工業品を生産するマキラドーラ(輸出加工区の一種)として急成長してきました。マキラドーラの最大の魅力は、合衆国の6分の1程度とされるメキシコ側の低賃金労働力を活用できることです。国境地帯のマキラドーラでは、「双子工場」といわれる形態での工場立地が盛んになりました。双子工場とは、米墨国境の両側にひとつずつ補完関係の拠点を置き、経営を一元化した工場のことをいいます。双子工場の分業関係のなかで、メキシコ工場では原材料や部品が合衆国側から搬入され、労働集約的な工程が行われます。一方、合衆国工場では資本集約的な工程が行われるとともに全体の管理が行われます。 こうした「双子工場」方式によって、国境沿いの都市が「双子都市」として連関が深まるとともに、驚くべき成長をみせています。公的な統計によって都市圏人口の推移をみると、1960年にはサンディエゴ103万・ティファナ17万だったものが、現在ではサンディエゴ300万・ティファナ140万程度にまで膨れ上がっています。実際の人口は、統計を上回っていると考えられ、500万人規模の大都市圏を形成しています。 双子都市の経済格差と社会基盤 両市を比べると、道路など社会基盤の差はとりわけ歴然としています。サンディエゴは、動物園やシーワールドなど子供向け施設も充実し、8月は家族連れで活況を呈しています。旅行者にとっても運転しやすく移動しやすい環境です。ティファナに入ると、車の運転も容易ではありません。凸凹だらけの道を道路標識も十分でないなかで走り、かつ信号停止時に襲われる危険もあることから、5回目の訪問となる私も一人では運転したことがありません。 砂漠のようなところに都市が拡大したという点では、国境の南北とも同じです。ただし、社会基盤の整備に大きな差があります。ティファナでは、雨が降ると土が流れてアスファルト舗装部分にも凸凹が生じます。メキシコの中央集権制のもとで、財政の仕組みが不十分で、ティファナで落ちたお金は中央へは流れますが、社会基盤に使うお金は中央から流れてきていません。都市基盤・産業基盤の整備や環境政策などの分野で、国境を越えた地域間協力が試みられはじめました。似ても似つかぬ「双子都市」の行方が気になります。 |
著者プロフィール | |
長尾 謙吉 (ながお けんきち) ![]() 経歴 1990年 横浜市立大学文理学部卒業 1995年 大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学 1997年 大阪市立大学経済研究所講師 2003年 大阪市立大学大学院経済学研究科助教授(経済地理学・地域経済論担当) 受賞歴 1994年 日本カナダ学会研究奨励賞佳作(論文) 2001年 中小企業研究奨励賞経済部門本賞(共著書) 主な著書 『経済・社会の地理学』有斐閣、2002年。(共著) 『大都市圏再編への構想』東京大学出版会、2002年。(共著) 『グローバル競争とローカライゼーション』東京大学出版会、2000年。(共著) 『産業集積と中小企業』創風社、2000年。(共著) その他論文等多数 |
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