031 地球温暖化問題と自動車の現状
2013年11月
東京女子大学 准教授
二村真理子

 今回いただいたお題は「環境と交通」の問題である。せっかくエッセイを書くのだから、地球温暖化の分野で何か楽しい話をと思ったが、残念ながら最近、大きな動きが見られない。
 振り返れば京都議定書が1997年のCOP3において採択され、第1約束期間(2008年〜2012年)には1990年比6%減という目標を達成するため、さまざまな努力が行われていた。しかし、2011年の東日本大震災を境として、少し風向きが変わってきたようだ。
 そもそも、日本は京都議定書の第2約束期間に参加していない。これを反映するかのように、新聞等に記事として取り上げられる回数も少なくなっているという。ただし、欧米でも同じように減少しているとのことで、これは必ずしも日本だけの話ではないようである。日本を含め、これはどのように考えたらよいのだろうか?
 少なくとも日本の地球温暖化対策の現状は、新たな政策もなく、社会全体が環境に対して興味が薄い、一種の「凪」のようなものなのだろう。
 しかし、それにもかかわらず、日本の運輸部門についてみれば、CO2排出量は減少傾向にある。これは自動車関係諸税のグリーン化やエコカー減税などの政策の継続によって保有ストックの低公害化が進み、自動車からの排出総量が減少のサイクルに入ったということになるだろう。
 日本の自動車環境対策が成功した要因は、次世代型の新技術を導入するというよりも、従来型のガソリン車の性能向上を促した点にあるのではないかと私は思っている。消費者は低公害車を予算的に手が届く範囲で選択することが出来、自動車メーカーは販売車両の大半を、税制優遇を受けることが出来る低公害車とした。そして保有車両の平均燃費効率は大幅に改善した。
 しかし一方で、近年、次世代型に分類されるハイブリッド車が増えているようである。1997年にトヨタ自動車のプリウスが発表され、累計販売台数は2008年に100万台、2012年には400万台を達成したという。日本での販売状況は、トヨタが2010年に販売した普通乗用車のうち2割強を占めており、少なくともトヨタ車の5台に1台以上がハイブリッド車であったことになる。
 また近年、従来から販売されていた車種についても、続々とハイブリッドモデルが出るようになった。実は、我が家でも遅ればせながら、今年の初めにハイブリッド車に乗り換えた。走りだしの電気で走る軽い音はガソリンエンジンとは違い、これが異なる技術の自動車だと日々実感しているところである。
 自家用乗用車は個人の嗜好が強く反映される財であり、購入車種は車体価格と燃費だけで選ばれるわけではない。よって、選択できる車種が広がることで、さらにハイブリッド車のシェアは上昇するものと予想される。そして大きなリバウンド効果が起きない限り、CO2排出は減少していくだろう。
 自動車からの排出についてはCO2が減少していくサイクルを生み出すことに成功したため、新たな環境政策を打つ必要性が薄れているのだろう。すなわち、現在の状況は政策がうまく循環し始めた証であるともいえる。
 しかし、これで運輸部門の地球温暖化問題は解決したのだろうか?つい先ごろ出された日本が目指す2020年のCO2排出目標は現実的な水準にとどめたようであるが、2050年については80%削減を目標としている。この目標を達成するためには、私たちの常識を覆すような技術、異なった社会構造へと移行することが必要となるであろうし、そのためにはまた新たな工夫が必要となるだろう。大変なのはこの先だ。



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